北白川のイタリアン Bello Vero(ベッロベーロ)のアンティパスト・メニューにある「マッシュルームと新玉ねぎのサラダ」は、火を入れないで仕上げる引き算の前菜だ。マッシュルームは加熱せず、薄くスライスしただけ。玉ねぎは生のままドレッシングで和え、皿の下にしのばせる。最後に削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノを、ふわりと雪のように振りかけて完成。それだけで一皿になる。

イタリア語で insalata di funghi crudi、つまり「生のキノコのサラダ」。ピエモンテやロンバルディアあたりでは秋にポルチーニで作られる古典だが、Bello Vero では一年を通して扱いやすいマッシュルーム(イタリア語で funghi champignon)を使い、生ハムやカルパッチョと並べやすい軽い小皿に仕立てている。

生のマッシュルームという、もう一つの顔

マッシュルームは、ソテーや煮込みで使われることが多いキノコだ。バターで焼けば香ばしく、煮込めばコクが出る——火を通したマッシュルームの顔を、ほとんどの人は知っている。けれど生で食べたマッシュルームを覚えている人は、案外少ない。

火を入れずに、薄くスライスしただけのマッシュルームは、まったく別の素材のように振る舞う。歯ざわりは絹のようになめらかで、香りはずっと繊細。鼻の奥にすっと抜けていく、しっとりとした森の匂いがある。加熱すると消えてしまう香気成分が、生のままの状態だけに残っているからだ。

Bello Vero では、新鮮なマッシュルームを選んで、その日のうちにスライスして出している。空気に触れると色が変わってしまうキノコなので、お皿に並べるのはオーダーが入ってから。テーブルに運ばれてきたときの白さは、生のキノコならではの色だ。

玉ねぎは、自家製ドレッシングと一緒に

皿の下に敷かれているのは、薄くスライスした生の玉ねぎ。これに自家製のドレッシングを和えてから盛り付けている。ドレッシングそのものに玉ねぎを使っていて、生玉ねぎ独特の甘みと酸味が、そのまま下味になっている。市販のドレッシングのとがった酸ではなく、玉ねぎ由来の柔らかい酸が、皿全体をまとめてくれる。

生の玉ねぎは、人によっては辛味が気になる素材だが、ドレッシングと一緒に少し時間を置くと、辛味は穏やかになり、甘みのほうが前に出てくる。マッシュルームの繊細な森の香りと、玉ねぎの甘い酸味——この二つが土台にあって、上にパルミジャーノが乗る、という三層構造の小皿だ。

仕上げのパルミジャーノ——削りたてが、すべてを変える

最後にかけるのは、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノ。チーズおろし器でふわりと細かく削り、皿の表面が見えなくなるくらい、たっぷりと振りかける。雪が積もったような白い覆いの下から、マッシュルームのスライスと玉ねぎがちらりと見えるのが、この皿の見た目の楽しいところ。

パルミジャーノは、24ヶ月以上熟成されたエミリア・ロマーニャ州の硬質チーズ。粒状に砕けて舌にのる独特の食感と、ナッツのような香ばしさを持っている。削りたてとあらかじめ削ってある状態では、香りの立ち方がまったく違う——これは一度でも生のチーズおろし器を使ったことのある人なら、すぐにわかると思う。テーブルで削るのが理想だけれど、皿の上で削りたてを出すだけでも、空気をまとった香りはちゃんと届く。

パルミジャーノの塩気と旨味が、生のマッシュルームの繊細な香りに芯を通し、玉ねぎの酸味と甘みを引き受ける。三つの素材がそれぞれの仕事をして、互いを邪魔しない——引き算の料理は、こういうふうに成立する。

食べ方——下から混ぜずに、上から少しずつ

運ばれてきたら、まずはそのまま、表面のパルミジャーノとマッシュルームを一緒にフォークで取って口に運んでほしい。チーズの塩気とキノコの香りが、最初に舌の上で出会う。続いて、下の玉ねぎごとすくうと、ドレッシングの酸味が加わり、味の輪郭がぐっと立体的になる。

下からぐるぐる混ぜてしまうと、パルミジャーノが玉ねぎの水分を吸ってベタつきやすい。上から少しずつ、層を崩しながら食べるのが、この一皿のいちばんおいしい食べ方だ。最後に皿の底に残るドレッシングは、自家製フォカッチャでぬぐって食べきってほしい。

マッシュルームと新玉ねぎのサラダ
生のマッシュルームを薄くスライスし、自家製ドレッシングで和えた玉ねぎを下に敷き、削りたてのパルミジャーノを雪のようにかけた小皿。引き算の前菜。

イタリアの古典「funghi crudi」のこと

生のキノコをスライスして、オイルとレモンとパルミジャーノで食べる——これはイタリア北部、特にピエモンテやロンバルディアでは古くから親しまれている食べ方だ。秋にはポルチーニ(porcini)を、夏にはオヴォリ(ovoli、皇帝のキノコ)を、年間を通してマッシュルーム(champignon de Paris)を——その季節にいちばんおいしいキノコを、火を通さずに楽しむ。

古典のレシピは、薄切りキノコ+オリーブオイル+レモン汁+パルミジャーノ+黒胡椒、というシンプルな構成。Bello Vero のサラダは、その伝統に「生玉ねぎとドレッシング」を加えたバージョンと言える。レモンの代わりに、自家製ドレッシングの中の玉ねぎの酸味が酸の役割を担い、玉ねぎそのものが食感と甘みを足してくれる。古典の骨格はそのままに、足元を少し変えた一皿だ。

ベジタリアンの最初の一皿として

このサラダは、肉や魚を使わない完全な野菜+キノコ+チーズの料理だ。Bello Vero では一部メニューでベジタリアン対応も承っているので、ベジタリアンの方の最初の一皿として、軽く頼んでもらえる。素材や調理について気になる点があれば、ご来店時またはご予約の際にお気軽にご相談ください。

同じ前菜のラインには、キャロットラペ(細切りにんじんのフランス式サラダ)やカポナータ(シチリアの甘酸っぱい野菜の煮込み)、やさいのフリット 季節の野菜6種もある。色の違う小皿を二、三品並べると、テーブルが一気に華やかになる。

合わせるワイン——軽やかな白、辛口の泡

マッシュルームと玉ねぎのサラダには、繊細な香りを邪魔しない軽やかな白ワインがよく合う。北イタリアのソアーヴェフリウラーノ、シチリアのカタラットグリッロ——ミネラルと果実の酸を持っていて、キノコの森の香りとパルミジャーノの旨味を、横にすっと広げてくれる。

果皮浸漬のオレンジワインもこの皿の好相手だ。フリウリの皮ごと醸す白、たとえばリボッラ・ジャッラやヴェルドゥッツォ・フリウラーノには、生キノコの土っぽい香りと響き合う独特の厚みがある。Bello Vero でもフリウリやスロヴェニア国境のオレンジワインは扱いがあるので、当日のリストから探してみてほしい。

泡なら、辛口のスプマンテクレマン、シャンパーニュ。パルミジャーノの塩気と泡の組み合わせは、最初の一杯にちょうどよい。Bello Vero はワインをボトルでのご提供のみだが、グラスシャンパーニュだけは1杯から楽しめる。シャンパーニュとこの小皿で食事を始めるのは、北白川の夜にしては少し贅沢な、けれど気の張らない使い方だ。

引き算の料理が、いちばん難しい

マッシュルーム、玉ねぎ、パルミジャーノ、ドレッシング。素材は四つしかない。火も入れない。それでも一皿として成立させようと思うと、ひとつひとつの素材の鮮度と質が、そのまま味に出てしまう——という意味で、引き算の料理はいちばん難しい。マッシュルームが古ければ香りが立たないし、玉ねぎが辛すぎれば全体を壊す。パルミジャーノが平凡なら、それだけで皿の品が下がる。

Bello Vero でこのサラダを置いているのは、四つの素材を毎日きちんと揃えられるからだ。マッシュルームは新鮮なものを選び、玉ねぎは季節のものを使い、パルミジャーノは塊で仕入れて削りたてを出す。ドレッシングは自家製。そういう日々の小さな積み重ねが、シンプルな前菜のおいしさを支えている。

京都の街と、生キノコの前菜

「京都 マッシュルーム サラダ」と検索しても、生のマッシュルームを主役にした前菜を出す店は、京都ではそれほど多くない。和食の文脈ではキノコは加熱するもの——という前提が強く、刺身的に生で食べる発想は少数派だからだ。イタリアの北部では当たり前の funghi crudi を、北白川の夜にひと皿として置いているのは、Bello Vero の小さな個性のひとつ。

銀閣寺・哲学の道のあと、ワインを一杯飲みながら、白いパルミジャーノの雪を崩していく——そういう静かな前菜の時間を、ぜひ味わってほしい。

北白川という、京都の端っこで——銀閣寺から徒歩15分の穴場

北白川エリアは、京都の中でも観光地とローカルエリアが重なる独特の場所だ。銀閣寺から白川通りを北へ10〜15分ほど歩くと、このあたりに出る。哲学の道の北端からも徒歩10分圏内。京都大学や京都芸術大学のすぐ近くで、昔から学生とご近所さんが混じり合う街でもある。

銀閣寺周辺の飲食店は17〜18時に閉まってしまう店が多く、観光のあと夜ごはんを食べる場所を探して困ることもある。Bello Vero は 13:00 から 22:00 まで通し営業しているので、銀閣寺・哲学の道をゆっくり歩いたあとの遅めの夕食にも、昼下がりの昼飲みにも使える、北白川の穴場として気軽に立ち寄ってほしい。前菜の小皿とワインだけのライトな使い方も、もちろん歓迎している。

前菜・アンティパストの品揃え

Bello Vero の前菜・付け合わせは、その日の野菜と魚を中心にひと通り揃えてある。マッシュルームと玉ねぎのサラダ以外にも、気分で選んでほしい。

銀閣寺・哲学の道からのアクセス

銀閣寺を観光したあと、白川通りを北へそのまま上がれば徒歩10〜15分ほどで到着する。哲学の道の北端からも徒歩10分圏内。市バス「北白川」停留所からは徒歩約2分、叡山電鉄「茶山・京都芸術大学」駅からは徒歩10分ほどの距離だ。

📍 京都市左京区北白川久保田町64番17
🕐 火〜日 13:00〜22:00(L.O. 21:30)/月曜定休
🚶 銀閣寺から徒歩約15分 / 哲学の道(北端)から約12分 / 市バス「北白川」から徒歩2分
📅 ご予約は Web予約 / TableCheck または お電話 075-600-0740