ハモンセラーノ(jamón serrano)は、スペインの白豚の後ろ脚を塩で締めて、山の冷たい風で何ヶ月もかけてゆっくり熟成させた生ハムだ。「ハモン(jamón)」がスペイン語の生ハム、「セラーノ(serrano)」が「山の」という意味で、その名のとおり山岳地帯の乾いた空気のなかで作られる。脂と赤身のバランス、塩気の角の取れ方、噛むほどに広がる旨み——スペインの食文化を一枚で説明できる、シンプルなのに奥の深い前菜である。

北白川のイタリアン Bello Vero(ベッロベーロ)のアンティパスト・メニューにある「ハモンセラーノ」は、薄くスライスした生ハムを皿いっぱいに広げ、黒胡椒とオリーブオイルだけで仕立てる引き算の一皿だ。スペインのバルでは、ハムの薄切りに何も足さずに、グラスのワインと一緒にゆっくり食べる。Bello Vero の出し方も、それに近い。

「ハモンセラーノ」とは——イベリコとの違い

スペインの生ハムには大きく分けて二系統ある。ハモンセラーノハモン・イベリコ(jamón ibérico)だ。前者は白豚を、後者はイベリコ豚(黒豚系の在来種)を使う。価格帯も食感も異なり、イベリコは脂のなかに香ばしさが溶けるような濃さ、セラーノは赤身の塩気と噛みごたえの方向に味の中心がある。

セラーノは生産量が多く、スペインの食卓やバルで日常的に出される定番の生ハムだ。山の冷気で長い時間をかけて乾燥させ、塩と空気と時間だけで作る——という意味では、イタリアのプロシュット・ディ・パルマと同じ系譜にある。違いは豚の品種、塩の入り方、湿度と熟成期間の組み立てで、結果として「セラーノは少しドライで塩気がはっきり、パルマはしっとり甘みが立つ」という方向の違いになる。どちらが上ということではなく、どちらも各国の風土が選んだ最適解だ。

Bello Vero のハモンセラーノ、薄切りで皿に広げて

Bello Vero では、ハモンセラーノを薄くスライスして皿に並べ、上から黒胡椒を挽き、オリーブオイルを軽く回しかけるだけで出している。ハムの脂が皿の上で少しずつ透き通って、表面にうっすら艶が乗る——その瞬間がいちばんおいしい温度だ。常温になじませてから出すことで、塩気の角が抜けて、噛むほどに旨みが広がる状態に整っている。

食べ方は、フォークで一枚ずつ取って、そのまま口へ。あるいは自家製の焼きたてフォカッチャに乗せて、生ハムサンドの一口にするのもいい。スペインのバルではパン(pan con jamón)と一緒に食べるのが定番だが、Bello Vero のフォカッチャはオリーブオイルを練り込んだ柔らかい生地で、生ハムの塩気と相性がいい。

ハモンセラーノ
スペイン・山岳地帯で乾塩熟成された生ハムを薄切りに。黒胡椒とオリーブオイル、シンプルな引き算の前菜です。

イタリアンの店で、なぜスペインの生ハム?

Bello Vero はイタリア料理の店だが、メニューにはハモンセラーノを置いている。理由は単純で、地中海ヨーロッパの食文化はイタリアの国境で終わるわけではないからだ。スペイン、フランス南部、ポルトガル、北アフリカ——オリーブオイルと塩漬け肉と発酵パンの文化は、地中海をぐるりと囲んで連続している。シチリア島のカポナータがイスラム圏の影響を残しているのと同じで、イタリアの食卓は隣の国の味と地続きにある。

ワインも同じだ。ピエモンテからリグーリアを抜けて南フランスへ、さらにスペインのカタルーニャやリオハへ——地中海沿岸のワインは、土壌と気候の連続性を持って続いていく。イタリアンの店でハモンセラーノを出すのは、その連続性を皿の上で表すささやかな仕草でもある。

合わせるワイン——スペインの白、シェリー、軽めの赤

ハモンセラーノに合わせる定番は、スペインの白ワインだ。アルバリーニョ(Albariño)のように海風を含んだ白は、塩気の生ハムと驚くほど寄り添う。北西部のリアス・バイシャスやガリシアの白は、ミネラルと柑橘の酸を持っていて、口の中をきれいに切ってくれる。

もう一段スペイン的に振るなら、シェリー(Jerez)のフィノやマンサニーリャだ。フロール(産膜酵母)の下で熟成された辛口シェリーは、塩気と旨みのある料理に「同じ方向の旨み」で寄り添うので、生ハムにシェリーは古典的な相性として知られている。Bello Vero のリストにシェリーがあるとは限らないが、もし入荷していればぜひ試してほしい組み合わせだ。

赤に振るなら、タンニンが穏やかで果実味のある軽めの赤——テンプラニーリョの若飲み、ピエモンテのバルベーラ、南仏のグルナッシュなど、地中海寄りの赤がいい。重すぎる赤は塩気とぶつかって金属的な味になることがあるので、樽の効いた濃い赤よりも、軽快で果実が前に出る赤を選ぶといい。泡なら、辛口のカヴァ(Cava)やイタリアのスプマンテが、塩気を泡で持ち上げてくれる。

Bello Vero はワインをボトルでのご提供のみだが、グラスシャンパーニュだけは1杯から楽しめる。ハモンセラーノとシャンパーニュの泡で食事を始める——というのは、北白川の夜にしては少し贅沢で、けれど落ち着いた使い方だ。

同じ「塩漬け肉」でも——カルパッチョと並べて

Bello Vero の前菜には、もうひとつ薄切りの肉料理がある。「牛肉のカルパッチョ」だ。こちらは生の牛肉をごく薄くスライスして、レモンとパルミジャーノとオリーブオイルで仕立てる引き算のイタリア式前菜である。

同じ「薄切りの肉×オリーブオイル×塩気」という構成でも、ハモンセラーノは長期熟成の塩漬け肉、カルパッチョは生の肉に塩をあとから乗せる料理。前者は時間が味を作り、後者は素材そのものの鮮度が味を作る。ワインを2杯飲むあいだに両方並べてみると、地中海の塩と肉の文化の幅が皿の上に広がる。

京都の街と、スペインの生ハム

「京都 ハモンセラーノ」と検索すると、スペインバルや一部のワインバーが上位に出てくる。バル文化のある祇園・木屋町・烏丸エリアでは比較的見かけるが、銀閣寺・北白川エリアでは出している店は多くない。京都の北東、観光地の喧騒から少し離れた場所で、スペインの生ハムを薄切りで楽しめる——というのは、Bello Vero の小さな個性のひとつだ。

日本では生ハムというと、メロンと合わせる古典的な前菜のイメージが強い。プロシュット・エ・メローネ(prosciutto e melone)はイタリア・ローマ近郊の郷土料理で、夏の冷たい果物の甘さと生ハムの塩気を合わせる、確かに気持ちのいい組み合わせだ。一方、スペイン式の食べ方はハムだけで完結させるのが基本で、メロンを乗せず、パンとワインで黙々と食べる。Bello Vero のハモンセラーノも、後者の流儀で出している。

北白川という、京都の端っこで——銀閣寺から徒歩15分の穴場

北白川エリアは、京都の中でも観光地とローカルエリアが重なる独特の場所だ。銀閣寺から白川通りを北へ10〜15分ほど歩くと、このあたりに出る。哲学の道の北端からも徒歩10分圏内。京都大学や京都芸術大学のすぐ近くで、昔から学生とご近所さんが混じり合う街でもある。

銀閣寺周辺の飲食店は17〜18時に閉まってしまう店が多く、観光のあと夜ごはんを食べる場所を探して困ることもある。Bello Vero は 13:00 から 22:00 まで通し営業しているので、銀閣寺・哲学の道をゆっくり歩いたあとの遅めの夕食にも、昼下がりの昼飲みにも使える、北白川の穴場として気軽に立ち寄ってほしい。生ハムとワインだけのライトな使い方も、もちろん歓迎している。

前菜・アンティパストの品揃え

Bello Vero の前菜・付け合わせは、その日の野菜と魚を中心にひと通り揃えてある。ハモンセラーノ以外にも、気分で選んでほしい。

銀閣寺・哲学の道からのアクセス

銀閣寺を観光したあと、白川通りを北へそのまま上がれば徒歩10〜15分ほどで到着する。哲学の道の北端からも徒歩10分圏内。市バス「北白川」停留所からは徒歩約2分、叡山電鉄「茶山・京都芸術大学」駅からは徒歩10分ほどの距離だ。

📍 京都市左京区北白川久保田町64番17
🕐 火〜日 13:00〜22:00(L.O. 21:30)/月曜定休
🚶 銀閣寺から徒歩約15分 / 哲学の道(北端)から約12分 / 市バス「北白川」から徒歩2分
📅 ご予約は Web予約 / TableCheck または お電話 075-600-0740