5月の半ば、京都を歩くと、もう汗ばむ日があります。鴨川沿いも、哲学の道も、夕方になっても光が長く残るようになって、夜の入り口の時間が、いちばん気持ちのいい季節です。
そういう日に、カウンターで「とりあえず一杯」と頼みたくなるものを一つだけ選ぶなら、北白川のイタリアン Bello Vero(ベッロベーロ)では、迷わずモヒートとお答えしています。
カウンター越しの数分間
モヒートをご注文いただくと、店主はまず氷を取り出します。
ガラスのグラスにあらかじめ氷が入っているわけではありません。その場で氷を叩き、クラッシュドアイスを作るところから、一杯のモヒートは始まります。カンッ、カンッという乾いた音が、夕方の店内に響く。あの音を聞いた瞬間に、「あ、夏が来た」と感じてくださるお客さまも少なくありません。
続いて、フレッシュのミントを、手でたっぷりちぎってグラスに落としていきます。包丁で切らないのは、刃を入れるとミントの繊維から余計な苦味が出てしまうから。ちぎる、というワイルドな仕事こそが、いちばん香りが立つ。指先からも、ふっと青い香りが立ち上ります。
ライムをくし切りにして、ぎゅっと絞り入れる。キビ砂糖を加える。ここに、バカルディのホワイトラムを注ぎます。
そしてカウンターの上で、店主がペストル(pestle、すりこぎ)を握る。ぐっ、ぐっ、と優しくミントを潰していく。潰しすぎるとミントが苦くなるので、香りだけを引き出す——「叩く」のではなく「押さえる」感覚の仕事です。グラスの中に、青い香りがどんどん満ちていく。
最後にソーダを注ぎ、軽くひと混ぜして、ストローを2本添えてカウンターへ。
——ここまで、だいたい数分。その「数分」を、お客さまの目の前で過ごす。それが当店のモヒートの作法です。
なぜ、わざわざオーダー後に作るのか
モヒートは、「作りたての数分」がいちばん美しいカクテルです。
葉をちぎった瞬間の青い香り、ペストルで潰した瞬間に開く清涼感、ソーダを注いだ瞬間に弾けるシトラスの酸——どれも、グラスの中で時間とともに少しずつ消えていく香りです。事前にミントを潰してプールしておけば、確かに早く出せます。でもそれでは、いちばん大切な部分が、お客さまに届く前に消えてしまう。
だから、少しだけ時間をいただきます。氷を叩く音、ミントの香りが店内に広がる時間、店主がグラスの中に視線を落としている横顔——もしカウンター席にお座りいただけたなら、その「待ち時間」そのものも一杯のモヒートの一部として、楽しんでいただけたら嬉しいです。
注いでいるのは、バカルディ・カルタ・ブランカ
当店のモヒートに使っているのは、Bacardi Carta Blanca(バカルディ・カルタ・ブランカ)。コウモリのロゴで知られる、世界でもっとも有名なホワイトラムのひとつです。
このラムの故郷は、モヒートの故郷でもあるキューバ。1862年、サンティアゴ・デ・クーバの小さな蔵で、ファクンド・バカルディという男が、当時は荒っぽい蒸留酒だったラムを「もっと軽やかに、もっと混ぜやすく」できないかと試行錯誤を重ねた末に生まれた一本です。樽で熟成させたあと、活性炭でゆっくりとろ過して透明にする——そうして仕上がるクリアで、軽やかで、嫌味のない味わいが、ミントとライムをすっと押し上げてくれる。
キューバ生まれのラムで、キューバ生まれのカクテルを作る。難しい理屈ではなく、「相性のいいもの同士は、やっぱり相性がいい」——そんな素朴な理由で、当店ではこのラムを選んでいます。
少し大ぶりの脚付きグラスで
もう一つ、お話ししておきたいのがグラスのかたち。
モヒートというと、背の高いハイボールグラスを思い浮かべる方が多いかもしれません。でも当店では、少し大ぶりの脚付きグラス——丸いボウルが脚に乗った、コニャックやワインに似た形のグラスでお出ししています。
理由はとてもシンプルで、クラッシュドアイスとミントの葉、ライムのくし切りが、グラスの中で気持ちよく散らばってくれるのです。横長のフォルムだからこそ、緑と透明が混ざり合う景色が広がって、まだ口をつける前から「涼しい」と感じてもらえる。
ストローを2本添えているのも、最後のひと口まで気持ちよく飲み切っていただくための、小さな工夫です。
合わせる料理、合わせない料理
モヒートは、ミントとライムが主役の引き算の爽快感のカクテルです。脂の強い赤身肉やクリーム系のパスタと正面から組ませると、お互いの良さが半分になってしまう。でも、こちらと組ませると、夏のはじめの夕飯が一段と楽しくなります。
- 鮮魚のカルパッチョ+サルサヴェルデ — 緑のソースとミントが、ひとつの絵になる組み合わせ
- キャロットラペ — レモンとオリーブオイルの軽さに、モヒートの清涼感が寄り添う
- カポナータ — 甘酸っぱい野菜の前菜は、モヒートの「酸+砂糖」と意外に揃う
- ハモンセラーノ — 塩気と脂を、ミントとライムでさっと切る
- フライドポテト アンチョビガーリックバター/やさいのフリット — 揚げ物の油を、ソーダとライムで気持ちよく切ってくれる
もちろん、食前の一杯として、何も合わせずに単独で。クラッシュドアイスがゆっくり解けながら、味わいが少しずつ薄まり、香りがゆっくり広がっていく——その時間と一緒に飲むカクテルとして、ぼうっと過ごす夕方にもおすすめです。
モヒートはご注文いただいてからお作りするため、他のドリンクより少しお時間をいただきます。
その分、ミントの香りがいちばん立っている状態でお出しします。
暑くなってきたこの季節の夕方、カウンターで一杯目から——という時間にぜひ。
北白川の夕暮れに、一杯を
銀閣寺・哲学の道を散策した夕方、白川通を少し南へ下ったところに当店はあります。市バス「北白川」停留所から徒歩2分、銀閣寺からは徒歩約15分。火〜日の午後1時から夜10時まで通し営業、夕方の早い時間でも、夜更けでも、一杯のモヒートから始められます。
京都の夏の入り口を、ミントとライムの香りで開けてみてください。
📍 京都市左京区北白川久保田町64番17
🕐 火〜日 13:00〜22:00(L.O. 21:30)/月曜定休
市バス「北白川」停留所から徒歩2分 / 銀閣寺から徒歩約15分
📅 ご予約は Web予約 / TableCheck または お電話 075-600-0740