5月の半ば、京都の夕方は、もう日が長くなりました。哲学の道を歩いて白川通まで降りてきて、最初の角を曲がる頃には、額にうっすら汗がにじむ日もあります。
そういう日に、カウンターに腰を下ろして「とりあえず一杯、軽いのを」とお願いされたとき、北白川のイタリアン Bello Vero(ベッロベーロ)でいちばんよく注がれている一杯がこれです——リモーネ。自家製のレモンサワーです。
瓶の中で、レモンが時間と仲良くなる
リモーネは、お店で作り置きしているレモンの仕込みを、ソーダで割ってお出ししている一杯です。
仕込みはシンプルで、レモンの皮と果汁を、ウォッカに漬け込むだけ。皮を浮かべておくと、何日かかけてオイルがゆっくり溶け出してきて、透明だったウォッカが、淡い黄色に色づいていきます。香りも、果汁を絞っただけのレモンとは違う、皮のほうの香り——あの、ナイフで皮を剥いたときに指先に残る、青くて少し苦い、レモンらしいレモンの香りが立ってきます。
果汁だけだと「酸っぱさ」が前に出ますが、皮を一緒に漬けてあげると、酸っぱさの奥にレモンの「香り」がちゃんと残る。リモーネがほかのレモンサワーと少し違う顔をしているのは、たぶんこの一手間のおかげです。
ベースに選んでいるウォッカは Stoli
仕込みのベースに使っているウォッカは、Stoli(ストリ)——日本では長く「ストリチナヤ」の名で親しまれてきた、ロシア発祥の定番ウォッカです。
ウォッカは穀物(小麦や大麦)を原料に、蒸留と濾過を何度も繰り返して仕上げる、クセが少なくて軽やかなお酒。Stoli はそのなかでも、すっと真ん中を通っていくような、まっすぐな味わいのウォッカです。香りや甘みで主張しすぎないので、漬け込んでもレモンの香りを邪魔しない。それがいちばんの選んでいる理由です。
「レモンを引き立てる脇役として、軽くて、まっすぐで、ちゃんと骨のあるお酒」——そう考えていくと、当店では結局この一本に戻ってきます。
甘くない、というのが、いちばんのご馳走
リモーネをひと口飲んでいただくと、たぶん、ほとんどのお客さまが同じことを口にされます。
「あ、甘くない」。
シロップやリキュールで甘さを足していないので、口に含んだ瞬間にくるのは、レモンの香り→酸味→ソーダの炭酸、それだけです。後味に砂糖の重さが残らないから、グラスを置く手も軽い。「グイグイ飲める」という形容詞が、これほど自然に出てくるカクテルもなかなかありません。
食前のいちばん最初に、まだお腹に何も入っていない状態でいただくのも気持ちいいし、料理の途中で口の中をすっと洗いたいときの一杯にもよく合います。食事の進みを邪魔しない——それが、リモーネをいちばんよく使う場面かもしれません。
添えているのは、レモンとローズマリー
お出しするときは、輪切りにしたフレッシュのレモンを1枚、グラスのふちに浮かべます。漬け込んだ皮の香りに、もう一段、生のレモンの香りを重ねるためです。
そこに添えているのが、ローズマリーの枝。これは見た目のためだけではなく、グラスを口に近づけたときに、鼻先でハーブの青い香りがふわっと立ち上がるようにという、ささやかな仕掛けです。レモンの黄色と、ローズマリーの濃い緑——氷越しに見ると、夏のはじめの色そのもので、運んでいくときの足取りまで少しだけ軽くなります。
合う料理、合わせたい料理
リモーネは、「軽く始めて、軽く真ん中を通る」一杯です。脂の重い赤身肉やクリーム系のパスタの真横に置くより、こちらの料理と組ませると、夕飯の入り口がぐっと気持ちよくなります。
- 鮮魚のカルパッチョ+サルサヴェルデ — 魚の脂を、レモンの酸と炭酸がすっと洗ってくれる
- キャロットラペ — レモンドレッシングと、リモーネの香りが正面から重なる
- ハモンセラーノ — 塩気と脂の余韻を、ソーダのキレでリセット
- フライドポテト アンチョビガーリックバター/やさいのフリット — 揚げ物の油を、レモンと炭酸でちゃんと切ってくれる
- 自家製フォカッチャ — オイルとローズマリーの香りが、グラスの上のローズマリーとぴたりと揃う
もちろん、食前に何も合わせず一杯だけ、というのも気持ちのいい使い方です。グラスのなかで氷がゆっくり溶けて、後半は少しだけ薄まって、それがまた飲みやすい——時間と一緒に味わいが変わっていくお酒として、夕方のカウンターでぼうっと過ごす時間にも、よく似合います。
リモーネは、店で仕込んでいるレモンの漬け込みをソーダで割ってお出ししています。
甘さを足していないので、食前の一杯にも、料理と並走する一杯にも。
暑くなってきたこの季節、カウンターでの一杯目にぜひ。
北白川の夕暮れに、一杯を
銀閣寺・哲学の道を散策した夕方、白川通を少し南へ下ったところに当店はあります。市バス「北白川」停留所から徒歩2分、銀閣寺からは徒歩約15分。火〜日の午後1時から夜10時まで通し営業、夕方の早い時間でも、夜更けでも、一杯のリモーネから始められます。
京都の夏の入り口を、レモンとローズマリーの香りで、軽く開けてみてください。
📍 京都市左京区北白川久保田町64番17
🕐 火〜日 13:00〜22:00(L.O. 21:30)/月曜定休
市バス「北白川」停留所から徒歩2分 / 銀閣寺から徒歩約15分
📅 ご予約は Web予約 / TableCheck または お電話 075-600-0740