「最初の一杯、どうしましょうか」とお伺いすると、京都・北白川のイタリアン Bello Vero(ベッロベーロ)でいちばん多いお返事のひとつが、「とりあえずハイボール」です。
うちのハイボールは、銘柄が決まっています。シーバス リーガル ミズナラ 12年。スコットランドのブレンデッドスコッチを、日本のミズナラ(水楢)の樽でフィニッシュした、ちょっと珍しい一本です。
「とりあえず」に、ちゃんとした一本を
居酒屋のハイボールは、もっと安いウイスキーで気軽に飲める、それはそれで素晴らしい文化です。ただ、イタリアンの長い食事の隣に置く一杯となると、話が少し変わってきます。前菜、パスタ、メイン、ドルチェ——料理の表情がころころ変わる夜に、ずっと同じ顔で寄り添ってくれるお酒がほしい。
シーバス リーガル ミズナラを選んでいるのは、まさにそこです。スコッチのブレンデッドとしての滑らかさと、ミズナラ樽が与える独特の余韻。強く主張せず、でも一杯ずつちゃんと美味しい。「とりあえず」と頼んでもらえる一杯に、こちらが少しだけがんばっておきたかった、というだけのことです。
ミズナラ樽、という日本の不思議
ミズナラは、日本の山に生えるオーク(楢)の一種です。第二次世界大戦のころ、スコッチが手に入らなくなった日本のウイスキーづくりが「では国産のオークで」と試したのが始まりだと言われています。樽材としては割れやすく、本国スコットランドの蒸溜所からは長らく敬遠されてきました。
ところが、そのミズナラで熟成したウイスキーから立ち上るのは、お香のような、白檀(びゃくだん)や伽羅を思わせる、深く澄んだ香り。世界のウイスキー業界が「これは他のオークでは出ない」と驚いて、いまではミズナラ樽は、ジャパニーズウイスキーの象徴的な道具のひとつになりました。
シーバス リーガル ミズナラ 12年は、その流れを受けてスコットランド側から出てきたボトルです。スコッチが、日本の樽の力を借りに来た——そう書くと大袈裟ですが、ボトルに巻かれた青い和紙のような帯と、ラベル中央の桔梗のような家紋を眺めていると、本当にそういうお酒なのだと感じます。
炭酸でほどいて、料理の隣へ
これをハイボールにします。ロックグラスに、角の立った大きめの氷をひとつ。シーバス リーガル ミズナラを注ぎ、そっとステアして、よく冷えた炭酸を注ぎ入れる。炭酸の細かい泡が立ち上がり、薄い金色のなかにミズナラの香りがふっとひらく——それが、運ばれてくる一杯です。
濃すぎず、薄すぎず。ストレートで嗅いだときのお香のような香りが、炭酸の上を歩いて鼻先まで届くくらい、というのが目指している濃さです。口に含むと最初は爽やかなのに、飲み込んだあとに、すっと木の香りが余韻として残る——そのバランスが、長い食事の友として、いちばん心地よい場所だと思っています。
料理の邪魔をしない、というのは贅沢なこと
ワインや日本酒は、料理と組み合わさって、料理側の表情を変える楽しみ方をします。ハイボールは少し違って、料理を主役のまま、隣で静かに自分の仕事をしてくれるお酒です。
味の濃いものを食べた口を、炭酸でさっと洗ってくれる。脂を切ってくれる。口のなかをいったんリセットしてくれて、次のひと口に新しい気持ちで迎えにいける。「邪魔をしない」というのは、地味に聞こえて、実はかなり贅沢な仕事です。
ましてその一杯がミズナラの香りを連れてきてくれるとなると、洋食の店なのに、どこかに「日本の木の家にいる感じ」がふっと混じる。Bello Vero の店内は、京町家の躯体に古い梁と土壁を残したつくりなので、その混ざり方が、わりと気に入っています。
合わせたい料理
ハイボールは、ほぼどの料理にも寄り添えてしまうのですが、なかでも「あ、今夜はハイボールでよかった」と感じてもらいやすいのは、こんなお皿です。
- ハモンセラーノ — 熟成生ハムの塩気と脂を、炭酸とミズナラの香りが軽く流してくれる
- フライドポテト アンチョビガーリックバター — 揚げ物+にんにくバターには、ハイボールの「リセット力」がいちばん効く
- やさいのフリット 季節の野菜6種 — 薄衣の油を切る、ハイボール本来の役どころ
- A5国産黒毛和牛ステーキ(銀閣寺大西) — 重い肉のあとに、炭酸とミズナラがふっと抜けてくれる
- ランプレドット — 牛モツの白ワイン煮。お香のような余韻が、煮込みの後味に長く寄り添う
前菜から始まって、パスタ、メイン、と進むなかで、グラスは一杯のままでも、二杯目に切り替わっても、食事の流れを止めない。それが、Bello Vero がハイボールに期待していることのほぼ全部です。
ハイボールはシーバス リーガル ミズナラ 12年で。
ミズナラ樽がくれるお香のような余韻と、炭酸の軽さ。
強く主張せず、料理の邪魔をしない、食中の一杯です。
北白川の夜に、長く座っていける一杯を
銀閣寺・哲学の道を歩いた帰り、白川通を少し南へ下ったところに当店はあります。市バス「北白川」停留所から徒歩2分、銀閣寺からは徒歩約15分。火〜日の午後1時から夜10時まで通し営業、夕方のまだ明るい時間から、ふらっとカウンターに座って一杯、という使い方も歓迎しています。
「とりあえずハイボール」と言ってもらえる夜が、いちばん好きです。長く座っていてください。
📍 京都市左京区北白川久保田町64番17
🕐 火〜日 13:00〜22:00(L.O. 21:30)/月曜定休
市バス「北白川」停留所から徒歩2分 / 銀閣寺から徒歩約15分
📅 ご予約は Web予約 / TableCheck または お電話 075-600-0740